ほんのちょっと読み返すだけのつもりが、結局全部読んでしまった。せっかくなので感想を書く。



 ドッペルゲンガーのようにそっくりな構造をした、二つの流氷館。その片方では連続殺人が起こり、もう片方では《あかずの扉》研究会の面々が、事件解決と仲間の命を救うために動く。

 文句のつけようのない素晴らしい本格推理小説! 《あかずの扉》研究会の会長、後動悟が推理がすごい。ふつうの人なら見逃してしまうだろう些細なことも、彼にはしっかりと見えており、読者がふふ~んと軽く読み流した情報が、真実を読み解く重要なファクターとして次から次へと掘り起こされていく様は見ていて爽快である。「まさかそんなことまで!?」と思うような、小説の冒頭で語られたごくごく日常的なやりとりでさえも事件に関わってくるのだから、まったく油断も隙もない。しかしそうやって思いもしない方向から鈍器で殴られるような感覚が最高に心地良い。

 物語はちょっと長めの文庫で611ページ。しかしどんどん先を読みたくなる面白さがある。 一度読んだからだいたいの内容は頭に入っているつもりでいたけど、まったく考えが甘かった。こんなに情報量多かったっけ。しかもその情報が変にぶつかり合うこともなく、最後にはしっかりと一つに収まるのがすごい。一列あたりのキューブの数がめっちゃ多いルービックキューブを組み立てて、綺麗にすべての面の色が揃ったときのような快感がある。

 登場人物の名前がとても重要になってくる。これも一度読んだから漠然と覚えてはいたんだけど、読み直してみて改めてすごいなぁと思った。ここまでやられると、本当にすがすがしい気分。自分は建物の構造とか頭に描くのがむっちゃ苦手だから、それよりは名前にひっかけがあるとか、テキスト系の謎のほうがピンとくる。もちろん、建物のトリックもすごい。あんまり喋るとネタバレになりそうだし、そろそろやめたほうがいいかな……。


 ちゃんと読み返そうと思っていたわけじゃないので、最初のほうは適当に飛ばしながら読んでいた。それが途中で「これはちゃんと読まないといけない!」と思い直し、「最初からちゃんと読んでおくべきだった」と後悔し、最終的には「もう一回最初から読もうかな?」と。

 でも結局そこまではしない。いつもそう。こういうことはよくあるんだけど、自分は本を読むのがそもそも遅いし、また最初から読むとなると時間がかかる。それでもいい。いつかまた読み返したときは、たぶん「全然覚えてないなぁ」と思いながら同じように驚くんだろう。小説を読むのに都合の良い思考回路してるなぁと思った。




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